最高裁判例 夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方の配偶者に対する責任

最高裁昭和54・3・30第二小法廷判決(最高裁昭51(オ)第328号慰藉料請求事件)

超有名判例です。
同じ日付で同じテーマを判断した最高裁判例があるのですが、
その紹介はまた別の機会にします。

婚姻期間9年の既婚者男性が、銀座のアルバイトサロンにホステスとして勤務していた女性と知り合い、
やがて互いに好意を抱くようになりました。
この女性はこの男性に妻子のあることを知りながら、この男性と肉体関係を結び、
出会いから3年後、この男性との間にできた子を出産しています。

この男性には妻との間にすでに二人の子がおりました。
その後に上記女性との子が生まれ、さらにその後、妻との間に三人目の子が生まれています。
その直後、男性は家をでてこの女性との同棲をはじめました。
そこで、妻と子らがこの女性に対して慰謝料の支払を求めた、というのがこの裁判です。

最高裁まで決着がつきませんでした。

当事者がこの裁判で争っていたのは、次の2点です。
①この女性は妻に対して慰謝料を支払う義務を負うのか。
②この女性は妻との間の子らに対して慰謝料を支払う義務を負うのか。

最高裁判所は、上記①について、
夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、
右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、
両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、
他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、
右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである
として、①妻に対する慰謝料支払義務を肯定しました。

妻からすると、この女性さえいなければ、自分がこんなに辛い思いをしなくて済んだのだから、当然の判断といったところでしょうか。

控訴審(最高裁判所の前の段階の裁判)では反対の結論だったものを変更したのがこの最高裁判決です。
控訴審では、
この男性とこの女性の関係が自然の愛情に基づいて生じたものであるとして、
この女性の行為には違法性がなく、妻に対する不法行為責任を負わない、
つまり、慰謝料支払義務はないという判断をしたのです。

相手女性からすると、恋愛は自由なのだから当然の判断である、
妻から自分に対する慰謝料請求なんて
認められるわけがない、といったところでしょうか。

それを最高裁判所はひっくり返したというわけです。

また、最高裁判所は、上記②について、
妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、
その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、
その女性が害意をもつて、父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、
右女性の行為は、未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である
けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、
他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、
他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、
そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないもの
いわなければならないからである
として、②子に対する慰謝料支払義務については、
原則として否定するとの判断を示しました。

ちなみに、この点については、控訴審においても同様の判断をしております。

このように最高裁判所は、
男性に妻のいることを承知のうえで、男性と肉体関係をもつことは、
妻に対しては不法行為であることを認めるとの判断をする一方で、
男性に妻との間の子がいることを承知のうえで、男性と肉体関係をもち、
同棲にまで至ったとしても、特段の事情のない限り、
子に対しては不法行為とならないとの判断をしています。

たしかに妻以外の女性に対する愛情と妻に対する愛情は矛盾するものといえましょうが、
(両立できる人もいるという話は措いておいてください(笑)。
夫としては両立できても、妻からしたらそれは両立するものではない、
という理解の仕方です。)
妻以外の女性を愛したからといって、
それと子に対する愛情とを両立することはできるものですからね。

そうだとすれば、
相手女性に子に対する慰謝料支払義務まで負わせることは相当でないと判断した
というのが最高裁判所なりのバランス(公平、正義)ということなのでしょう。

どこまでこの女性に責任をとらせるべきか、
どこまで妻や子の救済を図るべきか、
そのバランスですね。

でも実は最高裁判所のこの判断は、
論理的な判断をしているというわけではありません。

お父さんがお母さん以外の女性を愛したがゆえに自宅をでていってしまった。
お父さんは、今、その女性と同棲している。
という状況は、
子からしてみれば、その女性のせいで、
自分がお父さんとお母さんと一緒の平穏な家庭生活を送るという環境を破壊された
ともいえます。
相手女性が男性に妻子がいることを知って、その男性と関係に及び、同棲するに及んだ以上は、
子らの家庭環境を破壊した張本人として、子らに対する関係でも、慰謝料支払義務を負うべきである
という判断は論理的には十分成り立ちますからね。
しかし最高裁判所はそのような判断をしなかったというわけです。

とにかく交際相手の女性にそこまでの責任を負わせるべきではない、
特段の事情があれば別だけれども、、、というのが、
最高裁判所が我々に示したバランスということなのです。

鳥の群れと青空


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青島 克行

青島 克行弁護士・保育士・宅地建物取引主任者

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静岡県静岡市出身
昭和50年9月17日生
 弁護士(東京弁護士会、登録番号31776)
 保育士(東京都)
 宅地建物取引主任者(東京都)

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