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不倫慰謝料|夫の交際相手への慰謝料請求が認められなかったケース

最高裁平成8・3・26第三小法廷判決(最高裁平成5年(オ)第281号損害賠償請求事件)

不倫慰謝料に関する超有名判例です。
以前紹介した、最高裁昭和54・3・30第二小法廷判決の流れを汲んだものです。

不倫慰謝料|どんな事案だったのか?

婚姻後20年の同居期間を経て、
自宅をでて、妻と別居した夫が、
別居開始後に出会ったスナックの女性と交際するようになり、
その女性との間に子を設け、認知もしている。
その状況において、妻から、この女性に対し、
不貞行為を理由とした慰謝料請求がなされたというのがこの裁判です。

不倫慰謝料|裁判所の判断は?

実はこの裁判、第一審、第二審ともに、妻からの慰謝料請求を棄却しております。
意外に思われるでしょうか。
妻が可哀相と思う方もおられるでしょう。

不倫慰謝料|どういう事情があったのか?

この夫婦は婚姻後、二子を授かります。
しかし性格の相違や金銭に対する考え方の違い等が原因となって、
婚姻後17年をたつころには、夫婦仲は著しく悪化して、
むしろ妻のほうから財産分与を要求するような状態にありました。

その後、夫が離婚調停を申し立てました。
しかし、妻が出席をせず、話がまとまりません。
また夫が大腸癌を患い、治療のための入院をするなどの紆余曲折を経て、
夫は、自宅とは別にマンションを購入し、
ひとり家を出て、別居に踏み切ったのです。
婚姻から20年が経過していました。

夫は、退院して間もないころに、スナックで、
ちょうどアルバイトをしていた本件女性と知り合います。
女性は、妻とは離婚することになっているという話を聞いてはいましたが、
すぐに交際関係になっていたわけではありません。
夫の上記別居以降、夫が一人暮らしの状態になったことから、
次第に親しい関係となり、
同棲をはじめ、妊娠、出産に至りました。

不倫慰謝料|当事者の本音

訴えた妻としては、夫婦仲は険悪になっていたものの、
面子もあるでしょう、
夫の交際相手に、慰謝料を払わせないことには気がすまない、
ということになりましょうか。

訴えられた女性としては、どうだったでしょうか。
おそらく、上記事情からすると、
離婚が成立していないことは気がかりではあったでしょうが、
話をきくかぎりは、直近5年間は、夫婦仲も悪く、
妻が夫に財産分与請求をするぐらいであれば、本当に夫婦仲としては終わっているのだろう。
実際、別居を開始しているし、本当に慰謝料を支払わないければならないものなのか、
むしろ夫婦の問題で、自分に慰謝料請求がくるのはお門違いではないか、
といった心境だったのかもしれません。

というわけで、第一審、第二審ともに、妻の請求を棄却したのではありますが、
その都度、妻が控訴、上告をしたため、最終判断が、最高裁に持ち込まれました。

不倫慰謝料|最高裁の判断は?

最高裁判所は、本ケースでの妻からの慰謝料請求を認めませんでした。
次のように、述べております。
《夫と第三者が肉体関係を持った場合において、
妻と夫との婚姻関係がその当時既に
破綻していたときは、特段の事情のない限り、
第三者は妻に対して不法行為責任を負わない
ものと解するのが相当である》
《けだし、第三者が夫と肉体関係を持つことが妻に対する不法行為となる・・・のは、
それが妻の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、
妻と夫との婚姻関係が既に破綻していた場合には、
原則として、妻にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえない》

不倫慰謝料|最高裁の価値判断

この判例から分かることは、
最高裁は、
夫婦の一方が、他方の交際相手に慰謝料請求をするには、
夫婦としての関係が、実質的に見て、破綻していないこと、
を要求しているということです。
戸籍のうえでの夫婦関係(形のうえでの夫婦関係)があるだけでは、
足りないというのです。

皆さんは、どのように思われますか。

夫婦の形もいろいろですよね。
入籍をしていなくても、事実婚(内縁)という形をとる夫婦もいます。
このような夫婦の場合であればなおさら、
戸籍のうえでの夫婦関係の有無は、
なんの基準にもならず(そもそも婚姻届が提出されていないのだから)、
夫婦としての実質があるかどうか(破綻していないかどうか)で、
みなければなりません。

とにかく、戸籍上の婚姻関係が残っているからといって、
実際の夫婦としての関係が破綻しているような場合には、
妻から夫の交際相手への慰謝料請求は認めない。
というのが、
最高裁判所が我々に示したバランスということなのです。

問題は、どのような事情があれば、夫婦関係が既に破綻していた場合といえるかどうかですが、
この点については、また別の機会に。

(民集50巻4号993頁、判例時報1563号72頁、判例タイムズ908号284頁)


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