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離婚と精神病|統合失調症と診断された妻との離婚を認めたケース

最高裁昭和45・11・24第三小法廷判決(最高裁昭和45年(オ)第426号離婚請求事件)のご紹介です。

この判例は、最高裁昭和33年7月25日判決(民集12巻12号1823頁)が掲げた離婚障害事由に関する妻側からの主張を排斥して、精神病に罹患した妻に対する夫側からの離婚請求を認めた、超有名判例です。

離婚と精神病|どんな事案だったのか?

婚姻後、妻には、次の事情が生じました。

・精神病と診断され入院、退院を繰り返すようになった。
・財産管理に関する判断能力がないと判断されて、裁判所から禁治産宣告を受け、妻の父が妻の後見人に選任された。
・最終的に、統合失調症(当時は精神分裂病と呼ばれた)の症状にあり、退院までにはなお日時を要する見込みで、かりに退院しても、再入院の可能性が多分にあり、将来家庭の主婦として生活出来る程度に回復することは予想できないとの診断を受けた。

そして、婚姻から約10年ほど経過した後、夫から離婚を求める訴えが起こされたのです。

離婚と精神病|裁判所の判断は?

妻側は、一貫して、離婚の請求を争っています。
しかし、第一審、第二審、最高裁判所のいずれも、夫からの離婚請求を認めました。

離婚と精神病|どういう事情があったのか?

最高裁判所は、次の事情をあげて、妻側の上告を棄却しています。

妻の実家が、夫が支出しなくても、妻の療養費に事欠くような資産状態ではないこと。
夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないこと。
それにもかかわらず、
夫は、妻の過去の療養費について、妻側と示談して、その全額の支払を終えていること。
夫は、妻の将来の療養費について、和解の席上、夫の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明していること。
ふたりの間の子にいては、夫が、出生当時から養育していること。

最高裁判所は、これらの諸般の事情があるということは、昭和33年の最高裁判例にいうところの離婚障害事由(離婚の請求を許すべきではないとする事情)が不存在であることを意味するとも説明しております。
ここまでやってきた夫に、これ以上の精神的経済的負担を課すのは忍びない、もうこの婚姻状態から解放させてあげよう、との判断だと思われます。

離婚と精神病|精神病に罹患したらパートナーから捨てられてしまう?

皆さんのなかには、それなら自分が精神病になった場合には、パートナーから捨てられてしまうではないかと心配する方もいるかもしれません。
しかし、裁判例で、実際に精神病を理由とする離婚を認めたケースは、公表されている限りは少ないようで、裁判所の判断は極めて厳格であると分析されています。
(民法770条4号の該当性判断で否定されるケースが多い。但し、4号で否定されても5号で肯定されて最終的には離婚請求を認める場合はある。いずれにせよ、その判断は厳格にされているようです)

昭和33年の最高裁判例にある
《たとえ、夫婦の一方が不治の精神病にかかったとしても、その病者の今後の療養、生活等について、具体的方途を講じ、前途にその見込がついた上でなければ、770条2項によって離婚請求を棄却しうる》
との判断は、離婚後の精神病者の保護を極めて大切に考えたもので、この趣旨は、現在も否定されるものではありません。

精神病者ではない方に、耐えられないほどの精神的経済的負担を課して、その人が潰れてしまえば、夫婦共倒れになってしまいますし、その人にも人生があります。
その意味で、「前途の見込み」についても、相手方に無理を要求することがあってはなりませんが、
相手方の人生、精神病者の人生のいずれをも成り立たせていくためのバランスが、ケースバイケースで問われることになります。

これまでのケースでは、
①財産分与によって、療養・生活費相当額が負担されること。
②離婚を求める側が、財産分与や離婚後の扶養として、可能な限りの協力をする旨を表明していること。
③親族などによる、病人の引受体制ができていること。
④国の費用による入院治療が可能であること。
等が、昭和33年の最高裁判例にいう「具体的方途」にあたるものとして、評価されています。

自分が精神病に罹患することも、パートナーがそうなることも、誰しも起こりうる事態です。
もしそのような事態になったとしても、うろたえることのないように。
お互いが生き延びるために、何が必要なのか。
考え続けていく必要がありそうです。

(民集24巻20号1943頁、判例時報616号67頁、判例タイムズ256号123頁)


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