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婚約を不当破棄した男に慰謝料の支払いを命じたケース|最高裁昭和38・9・5第一小法廷判決

婚約を破棄するとどうなる?|最高裁昭和38・9・5第一小法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1200号 慰謝料請求事件)

婚約を不当破棄した男に慰謝料の支払いを命じたケースです。
50年近くもたつ判例ですが、(業界の人には)超有名判例といってよい部類の判例だと思います。
男と女、いずれの立場にたってみるかによって、見え方は異なるものですが、さすがに女が可哀相というケースです。

婚約を破棄するとどうなる?|どんな事案だったのか?

事実経過の概略は次のとおりです。
男と女は、同い年で、出生以来の旧知の間柄であった。
昭和26年8月頃、男が女に結婚の申込をした。(ともに当時21歳)
それ以来、交際を続ける。
昭和27年9月頃、ふたりは初めて性的な関係をもつ(女の親戚宅にて)。
それ以来、昭和29年夏頃まで、ふたりは物置小屋や浜辺などで関係を重ねた。
昭和31年9月頃、ふたりは男が病気で療養中の旅館で関係をもった。
その結果、女は、2回、妊娠中絶手術を受けた。

上記期間中、ふたりは、ともにふたりの関係を、両親等に打ち明けることもせず、結納等の儀式を行うこともなかった。

昭和33年5月頃、男が女と会うのを避けるようになる。
昭和35年3月、男が別の女と事実上の婚姻をした。

。。。。。。

登場する性交渉の場所に、時代がかった雰囲気を感じるだけでなく、女への同情を誘います。切ない。
7年以上も付き合ってきて、2度も中絶手術をさせられて、しまには他の女と結婚したなどという男のことを許せる女は、おそらくいない。
20代という季節を、純情も貞操もすべてをこの男に捧げてきて(たぶん)、最後に裏切られたこの女は、慰藉料の支払を求めて、この男を訴えました。

婚約を破棄するとどうなる?|婚約を破棄されたときに、できることは何か

悲しい話ですが、入籍前に心変わりした相手に、入籍を強制することはできません。
婚約していなければ当然ですが、仮に、婚約が成立していても、入籍(婚姻届の提出)を強制することはできないのですね。
仮に、婚約が一旦成立すれば、どんなに心が冷めていようが、婚姻しなければならないという内容の法律ができれば、入籍を強制することは可能になるでしょう。理屈のうえでは。
しかし、愛情のない相手との婚姻生活を無理強いしても、双方によいことはないでしょうから、そのような法律ができることはないでしょうし、入籍を強制できないという結論自体は、仕方がないのでしょう。
後は、お金(慰藉料)で解決するしかない。
そういうわけで、この女も、婚約の不当破棄を理由に、慰藉料の支払を求めて、この男を訴えたのです。

婚約を破棄するとどうなる?|裁判所の判断

第一審も、第二審も、女の訴えを認めて、男に慰藉料の支払を命じました。
結論としては、妥当でしょう。
ところが、男は、その判断を争い、結局、最高裁にまで最終結論は持ち越しとなりました。

婚約を破棄するとどうなる?|最高裁判所の判断

最高裁判所も、次のように述べて、夫の上告を棄却しました。
(1)婚約の成立について → 肯定。
《原判決は、・・女が男の球根に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確であって、単なる野合私通の関係でないことを認定しているのであって、その人体は首肯し得ないことはない》《右認定のもとにおいては、たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従って結納を取かわし或は同棲しなかったとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる》
男は、ふたりの関係が、家族にすら知られていなかったこと、結納等の儀式を行っていなかったことを理由に、婚姻予約の成立を否定する主張をしていたようですが、最高裁判所は、事情次第では、両親に知らせていなかろうが、儀式等をしてなかろうが、婚姻予約自体は成立することを明らかにしたものです。
(2)婚約の不当破棄について → 慰藉料の支払義務の発生を肯定
《男、女間には婚姻予約が成立したことを認定しているのであるから、不当にその予約を破棄した者に慰藉料の支払義務のあることは当然であって、女の社会的名誉を害し、物質的損害を与えなかったからといって、その責任を免れうるものではない》
ここでも男は、誰にも知られていないから女の評判は下がっていないし、経済的な損失もなかいはずだという主張をしたのでしょう。しかし、最高裁判所は、そのような事情は、慰藉料の支払義務の発生に影響を与えないものとしたのです。

婚約を破棄するとどうなる?|婚約が成立するのは、どんなケース?(婚約の要件)

最高裁判所は、上記のとおり、本事例において婚約(婚姻予約)が成立しているものと認定しておりますが、実際には、婚約が成立しているとの主張を認めてもらうには、結構なハードル(私の印象としては、なかなか認めてもらえない、どちらかというとに否定されてしまうことの方が多い。私が担当したケースでは、10年近く、同棲していても、婚約していたものとは認めるつもりはないと裁判官にいわれたケースもあるぐらいです(そのケースは和解で決着)があるものです。

判例の歴史をおさらいしておきますと、
この最高裁判例が、下敷きにしたと思われる、戦前の大審院の判決があります(大判昭和6・2・20新聞3240号4頁年)。
大審院は、《所謂婚姻の予約なるものは結納の取交せその他慣習上の儀式を挙げ因て以て男女間に将来婚姻を為さんことを約したる場合に限定せらるべきものに非ずして男女が誠心誠意を以て将来に夫婦たるべき予期の下に此の契約を為し》たときに認められるとしました。
つまり、婚約の成立には、当事者が誠心誠意で将来夫婦になることを合意していれば足り、儀式など何らかの方式によっている必要はないものとしたのです。
すごいですよね。
極論、口約束でも婚約が成立してしまうという。。(理屈では)
不用意な合意はできないですね(笑)

ところが実際には、「当事者が誠心誠意で将来夫婦になることを合意していた」と認定されるには、単なる口約束がある程度では、婚約が成立しているとの認定をされるには足りません。
東京地判昭和40・4・28(判例時報417号50頁)は、本件と同じような事情(長期間にわたる肉体関係、2回の妊娠中絶)があり、かつ、男女ともに周囲の人にふたりの婚姻の意思を示す言動をしていたという事情がありながら、「婚姻の成立」を認めませんでした(但し、貞操侵害による不法行為の成立を認めて、慰謝料請求を認容した)。

また公に刊行されている判例集にも、婚約の成否が問題となった事例は、ほとんど存在せず、
肯定例として、
・周囲に婚約者であると紹介していたこと、約1年間、夫婦同然の生活をしていた等の事情を考慮して、婚約の成立を認めたケース(東京地判平成6・1・28。判例タイムズ873号180頁。神戸地判平成14・10・22 平成12年(ワ)2498号)。
否定例として、
・男女間において将来の婚姻に関する言葉のやりとりがあったものの、婚約の成立を否定したケース(仙台地判平成・1・19。判例時報1704号120頁、岡山地判平成24・3・28 平成19年(ワ)2021号)
がある程度のようです。

婚約を破棄するとどうなる?|婚約破棄の正当事由・婚約の不当破棄の区別

本稿で紹介している最高裁のケースでは、男は、女が他の男との関係があったと主張して、自らの婚約破棄の正当性を主張していたようです。
しかし、その主張を裏付ける証拠はないとして、その言い分が認められず、男からの婚約破棄には正当な理由がないものと判断されております。

実際、婚約破棄が争われるケースでも、正当な理由があるといえるのか、それとも、不当破棄ということになってしまうのか、その判断は容易ではありません。
双方、それなりの言い分があるものですし、それなりに共感できるところもあることも多いものです。

参考までに知っておいていただくとよいのは、
婚約破棄に正当事由があるとされたケースとして、
・結婚式直前に家出して行方をくらました場合(大阪地判昭和41・1・18 判例時報462号40頁)
・虐待、暴行、侮辱行為があった場合(東京高判昭和48・4・26 判例時報706号29頁)
・結婚式当日や初夜における社会常識を逸脱した異様な言動がある場合(福岡地裁小倉支部判昭和48・2・26 判例時報713号108頁)
・すでに子供が生まれている場合(但し、常に婚約が認められるわけではないと思われる)(東京地判平成24・1・27 平成23年(ワ)1814号、東京地判平成24・3・13 平成23年(ワ)11638号)
婚約の不当破棄とされたケースとして、
・民族差別を理由とする破棄(大阪地判昭和58・3・8 判例タイムズ494号167頁)
・部落差別を理由とする破棄(大阪地判昭和58・3・28 判例時報1084号99頁)
・とくに落ち度がないのに、結婚式直前における破棄(徳島地判昭和57・6・21 判例時報1065号170頁、東京地判平成15・7・17 平成14年(ワ)13050号)
・とくに落ち度がないのに、結婚式後における破棄(東京地判平生・3・28 平成22年(ワ)46792号、大津地判平成25・2・20 平成23年(ワ)991号)

婚約を破棄するとどうなる?|まとめ

婚約を解消したくなってしまった人。
婚約の解消を切り出されてしまった人。
どちらにとっても、悩みは深いものだと思います。

長い人生を思えば、互いに人生をともにしていく覚悟が揺らいでしまったパートナーと、無理やり、婚姻したところで、そんな婚姻関係はきっと長続きするものではないと思います。
その意味で、婚姻後にやはり合わないということで、離婚の苦しみを抱えるよりも、婚姻前の段階で解消する方向に舵をきったことは、長い目で見ると、正しい判断である可能性もあります。

感情的になってしまうこともあると思いますが、最後には、落ち着いて、決断を下すしかありません。
互いの人生にとって最善なことは、なんとか話し合って婚姻に至ることなのか、婚姻前に別れを決断することなのか、どちらなのか。
人に相談することもよいでしょう。
本当に悔いのない、決断をしていただきたいものだと切に願う次第です。

最高裁昭和38・9・5第一小法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1200号 慰謝料請求事件)
(民集17巻8号942頁、判例時報354号27頁)


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